街灯がなかった時代、夜の街は本当の暗闇だった
公開日:2026-11-07
夜に外を歩けるのは当たり前ではない。街灯のない夜は月明かりと提灯だけが頼りで、日没後の外出は危険と隣り合わせだった。
夜の街を歩くとき、足元が見えないことはない。
街灯が等間隔に並び、コンビニやお店の光が道を照らす。現代の都市で本当の暗闇を体験することは難しい。しかし人工的な光で街を照らすという発想は、近代以降のものだ。
今、当たり前にあるもの
現代の街灯はLED化が進み、省エネで明るく、センサーで自動点灯するものも多い。幹線道路・住宅街・公園・駅前と、都市のほぼすべての空間が夜間照明で覆われている。
街灯の整備は犯罪抑止・交通安全・夜間経済(夜の商業活動)を支える社会インフラとして行政が管理している。
それがなかった時代
近代以前の夜は、現代人には想像しにくいほど暗かった。
江戸時代の夜の街には街灯は存在せず、移動の光源は月明かり・松明・提灯・行燈に限られた。月のない夜(新月前後)は外出を控えるのが普通で、夜間の外出は犯罪の危険もあった。江戸の「辻行灯(つじあんどん)」は橋のたもとや辻(交差点)に置かれた行灯で、一定の明かりはあったが、現代の街灯とは比べ物にならない暗さだ。
日没後は基本的に家の中で過ごし、生活の多くは日の出とともに始まり日の入りとともに終わる「太陽に従った時間」だった。
どう変わってきたか
近代的な街灯の起源は18世紀のヨーロッパだ。1667年にパリのルイ14世が街灯(ランタン)を設置し、夜間の治安維持を図ったのが公的な街路照明の始まりとされる。これは油ランタンで、明るさは限定的だったが「夜の街を照らす」という概念を確立した。
19世紀前半にガス灯が登場し、イギリスのロンドンで普及した。安定した炎を持つガス灯は夜の街を大きく変え、夜間の商業活動・娯楽・社交を可能にした。
電気街灯は1879年にトーマス・エジソンが白熱電球を実用化した後、1880年代以降に急速に普及した。日本では1882年(明治15年)に銀座に電気街灯が設置されたのが最初とされ、文明開化の象徴として注目された。
夜が変えた社会
街灯の普及は夜間の時間を「使える時間」に変えた。
工場は夜通し稼働できるようになり、店は夜も営業できるようになり、人々は日没後も外出できるようになった。夜間学校・夜の社交場・夜市が生まれ、「昼と夜の二倍の時間を使う社会」が形成された。
日本人の睡眠時間は世界的に見て短い。その背景には、夜を「活動できる時間」として使い続ける生活文化がある。街灯が照らした夜は、私たちの時間の使い方を根本から変えた。